『エピクロスの処方箋』夏川草介 より

「わからない」という贅沢を、子どもたちに。

——難しい本を最後まで読んだ者にだけ与えられる特権。

夏川草介さんの著書『エピクロスの処方箋』の中で、主人公が甥に語りかけるこの言葉に、胸を突かれた方は多いはずです。

今の時代、私たちは「わかりやすさ」を正義とし、短時間で答えに辿り着くことを良しとする風潮の中にいます。動画は倍速で視聴され、検索すれば数秒で要約が手に入る。そんなスピード社会の中で、子どもたちの読書時間は削られ、それと同時に「わからないものと向き合う忍耐力」も失われつつあるのかもしれません。

しかし、同作で語られている通り、読書の真髄は「即効性」にはありません。

咀嚼し、最後まで辿り着くという「体験」

意味が掴めず、霧の中を歩くような感覚。それでも投げ出さず、最後の一行まで指先を動かし続ける。この「知的忍耐」を経て血肉となった言葉は、読了した瞬間に理解できずとも、子どもの心の中に「種」として深く埋まっています。

そして数年後、あるいは数十年後。 人生の壁にぶつかった時、あるいは深い悲しみに暮れた時、その種は突如として芽吹き、かつて読んだ一節が「こういうことだったのか」と鮮やかな意味を持って、彼らを助けてくれるのです。これは、安易な要約や短編動画では決して得られない、一生モノの財産です。

保護者の皆様へ:共に「手強い一冊」を楽しみませんか

子どもに「読みなさい」と強いるのは難しいものです。だからこそ、まずは大人が、あえて「手強い本」を手に取ってみませんか。

  • 親が苦戦しながら読んでいる姿を見せる。

  • 「難しいけれど、なんだか気になることが書いてある」と、わからなさを共有する。

  • 最後まで読み切った時の、静かな達成感を共に味わう。

「今はわからなくてもいい。いつかこの本がお前を助けてくれるから」 そう言って一冊の本を手渡せる大人がいることは、子どもにとってどれほど心強いことでしょう。

本を読むという行為は、未来の自分へ宛てた「時限式の処方箋」を書き溜めるようなものです。情報が氾濫する今だからこそ、腰を据えて一冊と格闘する時間を、子どもたちに、そしてご家庭に取り戻してみませんか。

最後の一行まで辿り着いた者にしか見えない景色が、必ずあります。

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